昨今のコロナ禍により、多くの企業が顧客行動の急変への対応を余儀なくされた。そして、アプリやECサイト、セルフレジ、宅配サービスなど、素早く対応した事業者が、コロナ禍が落ち着いた後も成果をあげつづけています。 また、多くの企業がリモートワークやハイブリットワークを取り入れ、完全にフルリモートワークにシフトした企業も少なくなく働き方も急変しました。 このような変化によりB2C、B2B問わず、デジタルマーケティングからマーケティングDXへ取り組む企業が増えています。マーケティングDXとは何か?どのように取り組むべきか解説します。
マーケティングDXとは
マーケティングDXとは、データとデジタル技術を活用してマーケティング活動において業務変革をおこない機敏性や競争優位性の確保をめざす事です。近年、米中のデジタル・ディスラプターによる市場破壊や、緊急事態宣言などの要因で顧客行動が急激に変化する中、多くの企業でマーケティングの競争優位性や機敏性が求められています。
DXは以下の様に定義されています。端的に言うと、DXとはデータとデジタル技術を活用しさまざま外部環境の変化に合わせ企業変革をおこない競争優位性を確立することです。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
企業変革とは、ビジネスモデルや組織、企業文化も変革するため、実質別の会社に生まれ変わるような変化を指します。DXのトランスフォーメーションとは幼虫が成虫に変わる程の大きな変化を意味します。
マーケティングDXは、変化の激しい顧客行動と密接にかかわるマーケティング領域業務を切り取ってスピーディーに業務変革を実施することです。もしくは、企業変革を伴うDXのプロセスの一環として、マーケティングの業務変革を実施することです。その結果、計画的にDXを推進できます。
マーケティングDXのメリット
多くの企業がマーケティングDXに取り組む理由はなんでしょうか。ツールの導入だけでなく変革をともなうことによりどのようなメリットがあるのか整理します。
素早く対応できる
全社的な企業変革であるDX(デジタルトランスフォーメーション)に比べ、マーケティングDXはマーケティング領域に特化した業務変革であるため、マーケティング部門が中心となり比較的クイックに実行しやすいメリットがあります。
単純作業の効率化
マーケティングDXによって、合理化がはかられ単純作業などの自動化を進めることができます。メンバーはより生産性の高い戦略に専念することができます。
顧客一人一人に最適化した顧客体験を提供
マーケティングDXによって、これまでマーケティングでは困難だった、顧客一人一人の個別対応をおこなえるようになり、顧客体験を向上させることができます。たとえば、顧客が閲覧したWEBページ、来店頻度、営業との会話やメールのやり取り、購入履歴などのデータを統合して管理すつこることで、最適な接客や提案をおこなうことができます。
定量的なデータに基づいた意思決定
マーケティングDXによって、非常に多くのデータを取得することができ、メンバー全体が定量的なデータに基づいた判断を行うことができ、実施した施策に対して定量的に評価することができます。
マーケティングDXとデジタルマーケティング
マーケティングDXは、既に多くの企業が取り組んでいるデジタルマーケティングと何が違うのでしょうか。マーティングDXはデジタルを活用したマーケティング業務変革であることに対し、デジタルマーケティングはデジタルを活用した個々のマーケティング施策を指します。
よって、マーケティングDXは、さまざまなデジタルもアナログも含めたマーケティング施策全体の活用し組織そのものを最適化も含みます。
この図のようにざっくりと分類できます。例えば、これまで店舗型ビジネスをやっていて、そこにECサイトを加えると、顧客は商圏の制限と営業時間の制約もなくなり自由に注文できるようになります。 ここに更にECサイトでのご注文の品を店舗で送料無料でお渡しを可能にしたり、店舗に在庫がない場合にはECでの購入をお勧めしたり、オンラインとオフラインをマージするOMOを採用し始めると、デジタルを活用したマーケティング業務変革への取り組みつまりマーケティングDXといえます。
マーケティングDXの目的
外部環境の急激な変化に対する機敏性の確保が急務となっており、過去の成功体験が通用しにくくなっています。そのため、新たな成功体験を発掘するために、新たな勝ちパターンを導けるよう現状を正確にデータで把握し、分析をおこない常にアップデートし続ける必要があります。そのためには日々データを分析・活用できる体制を構築することがマーケティングDXの重要な目的となります。
マーケティングDXの課題
マーケティングDXを進めると多くの課題に直面するでしょう。業務改善であれば日々の業務の課題を解決しPDCAを繰り返しグロースさせるため発生しにくかった問題が、業務変革を伴うマーケティングDXでは業務を刷新することを指すためさまざまな課題に遭遇します。
マーケティングDXによる利益相反する課題
マーケティングDXマーケティングの推進によって部門によっては利益相反が発生することも少なくありません。例えば、ECサイトや専用アプリで販売チャネルを追加すると、地方の店舗の売上が下がってしまうといったことが発生します。
マーケティングDXによる影響範囲が大きい場合は、経営層主体のDX推進タスクフォースなどとともに、全社的に部門ごとの売上評価基準の改定と並行して全社的に調整しながら業務推進することでスムーズに進行できます。
DXに対するメンバーからの反発を招く課題
マーケティングDXのように業務改善ではなく業務変革となると、どうしてもデジタルやデータになじめないメンバーからの反発を招く傾向もあります。
あらかじめマーケティングDXを推進するための意義の周知や、経営層のコミットメントが必要です。また、デジタルやデータに対し苦手意識があるメンバーに対してアドバイザーやリスクキリング体制も有益です。
マーケティングDX後は、あらゆる施策をデータで評価できるようになり、データや数値で意思決定を行う機会が格段に増えるため、メンバー全体のデジタルリテラシーの向上はとても大切です。
DX人材不足による課題
DX人材不足も深刻な課題です。デジタル技術とマーケティングの両方のスキルを備えたDX人材はまずます需要が高まり、採用が難しくなります。そのため、採用の強化だけでなくDX人材育成のためのOJTやリスキリングも並行して推進することも大切です。
マーケティングDXを実現する組織
マーケティングDXでは全社的な情報資産をフル活用します。そのためには統括するマーケティング組織に戦略投資予算が必要であり、全社的な戦略を司る組織体である必要があります。 「マーケティングDXを実現するマーケティング組織の設置と組織変革」にてマーケティングDXを実現するために必要なマーケティング組織の在り方を記事にまとめましたのでご参照ください。
マーケティングDX施策の進め方
マーケティングDXを推進する際には目的から戦略をたて実行していく必要があります。「マーケティングDXとは?戦略から実施への進め方」で戦略から施策の導き方の一例を紹介しているので参考にしてください。
さまざまな課題を乗り越え、使用するデジタルマーケティングツールの活用が増えるとデータのサイロ化が問題になります。活用するシステムが少ないあいだはシステム間のデータ連携で解決できますが、データを取り扱うシステムの数が増えると、点と点のデータ連携ではおいつかなくなります。
このようなサイロ化したデータをマーケティング活動にデータ基盤が役立ちます。これにより、オンラインのデータもオフラインのデータも横ぐしを指してデータを活用できます。
このようにデータ基盤を構築することで、さまざまなシステム間のデータ連携・統合させ有効に活用できます。
データを収集する
マーケティング施策ではマス広告やDMなどアナログな施策も非常に多くあります。施策の成果などデータ化できていないものは極力データ化することがはじめの一歩です。これらのミッションはDXを実施するための重要な下準備となりデジタイゼーションと呼びます。
たとえば、博報堂DYグループでは、データ化しにくいテレビなどのマス広告施策の成果であっても、データ化できるAaaSサービスを提供しております。これまでデータ化しにくかったマス広告施策にたいしてもデータ収集・活用できます。
また、データ化していても活用できないケースも少なくありません。顧客情報を管理している業務システムが外部データ連携できないケースです。業務システムに有益なデータがあるにも関わらず活用できない場合などは、業務システムの改修やシステムのリプレースの検討が必要です。
他には、セールスが取り扱っている顧客情報を標準化せずに個々のPCでバラバラに管理しているようなケースもよくあります。このような場合はSFA/CRMなどの活用へ切り替える検討が有効です。
また、店舗での販売であれば、商品と商品の販売情報はPOSで管理できるが、誰が購入したのか顧客情報と連携していないケースが多くあります。このようなケースは、特に顧客ごとに会員カードやポイントアプリなど提示を求め、ポイントやクーポンで還元しつつ顧客の購買情報をひもづけます。その結果どの商品がどれだけ売れるのか、誰がどのような商品を買っているのかデータで取得できるようになり、顧客に対するマーケティングに活用できます。
データをデータ基盤に蓄積する
このようデータ収集を始めると膨大な量のさまざまなデータ形式が集まり続けます。これらをうまく整理して活用できる状態にデータ構造化して蓄積する必要があります。そこでデータ基盤が必要です。
事業規模が50億円を超えはじめると、さまざまな部門でデータが日々蓄積されます。多口の企業でその重要な情報資産が連携していないために活用できておらず、マーケティングDXを進める上で、活用できていない情報資産を含め、まず活用できる状態にすることは避けられません。
基本的なデータ基盤の説明をいたします。
データをためる(データレイク)
データには数字やテキストの他、PDFやEXCLEデータ、画像や音声、動画など、さまざまな種別のデータが存在します。それらのデータをローデータのままデータレイクに蓄積します。 例えば、店舗のPOSデータ、顧客の写真などさまざまなデータがリアルタイムに存在するデータを、ローデータのままデータレイクに保存します。
一度生データのまま保管する意図は、データ加工/連携のバッチに障害などのリスクにたいし、ローデータを保持することで障害復旧に役立ちます。また、データの処理速度のギャップを吸収する役割もにないます。
データを構造化する(データウエアハウス)
顧客の行動データや購買データなど日々増え続けるデータはデータウエアハウス(DWH)を活用し構造的に蓄積します。また、データレイクにたまっているさまざまな形式のデータのIDなども、顧客の行動データと構造的にひもづけ、データレイクのデータを有効活用できるようにできます。
主に日々増え続けるようなログデータのようなデータを構造的に扱います。例えば監視カメラの映像データがデータレイクにあるとすれば、監視カメラに映った人物(名前など個人情報など)や行動(施設内の位置情報など)をデータ化して構造的にデータウエアハウスに記録し続けます。こうすることで活用しにくかった映像データから検索や分析をおこないやすくなります。
データを活用しやすくする(データマート)
データウエアハウスには日々データが増え続け膨大なデータを蓄積するようになるため、分析・活用しにくくなります。分析・活用しやすいようにデータウエアハウスからデータを用途ごとに必要な量に絞ってテーブルに整理することでデータを高速に活用しやすくなります。
例えば、膨大な顧客データから商品の買い替え時期が6ヶ月以内にせまっている既存顧客だけをデータマートに抽出整理しておくと、MA(マーケティングオートメーション)などが参照して自動的に3ヶ月前、1ヶ月前などのタイミングでリマインド配信など活用することができます。
データ分析・活用する
マーケティングDXを取り組む際に、おおむねこのようなツールを活用し、データ活用の基盤ができます。基盤ができたらデータ分析やディープラーニングなどさまざまなデータ活用をおこなえるようになり、顧客や競合の外部環境の変化を把握・適応しやすい環境が整います。
マーケティングDX推進の課題
このようにデータ基盤をつくる事で部門間を超えて情報資産を有効活用できるようになりますが、多くの場合社内の他部門からの反発などよって進行の妨げになることが多くあります。特に事業部が互いに競い合い成長するスタイルを取っている場合や、競合しているグループ会社間の情報連携などについてです。
競合する部門間、グループ会社間の利益相反など組織的な調整を事前に行なうことが重要です。あらかじめ全社およびグループ会社間をトップダウンで課題を共有することが大切です。
マーケティングDXまとめ
DXが企業変革であることに対し、マーケティングDXは業務に部分最適した業務変革です。そのためスピーディーに部門単位で実施できます。 一方で、全社的にDX推進を進行している場合は、DX推進タスクフォースが描くビジョンやロードマップとの整合性をとる必要性を述べました。DXは企業変革であるのに対し、マーケティングDXは業務変革です。そのため、企業変革の結果ビジネスモデルが大きく変わってしまうことがあります。そうなるとマーケティングの戦略も大幅に変わるために、部分最適によりすぎるあまり、全体との整合性を失わないように気を付けましょう。
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