デザインシステムとは、企業やプロジェクトにおけるデジタルプロダクトのデザインと開発の統一性を保つために、ガイドライン、コンポーネント、ルール、ツールを体系的にまとめたものです。言い換えると、デザインの一貫性を維持し、効率的に開発を進めるための「設計図」のような役割を果たします。
現代のデジタル開発においては、デザインの一貫性を保つことがプロジェクトの成功に不可欠です。特に、多くのデザイナーやエンジニアが関与する大規模プロジェクトでは、デザインシステムがプロジェクトの効率化を促進し、ユーザーに統一感のある体験を提供します。
デザインシステムとデザインガイドラインやスタイルガイドは混同されがちですが、それぞれ異なる役割を持っています。デザインガイドラインやスタイルガイドは、基本的にはデザインに関する具体的なルールや原則を文書化したもので、カラー、タイポグラフィ、スペーシングなどの詳細が記載されています。一方、デザインシステムはこれに加えて、コンポーネントライブラリや設計原則、ツールセットなど、開発全体を支える包括的な枠組みを提供します。
デザインシステムには主に3つの重要な構成要素があり、これらが連携することで、デザインプロセスの一貫性と効率化を支えています。
デザイン原則は、デザインシステムの基盤となる理念やガイドラインであり、プロダクトがどのように見えるべきか、どのように機能すべきかを規定します。これらの原則は、プロダクトのデザインの方向性を示し、各デザイナーやエンジニアが個別のタスクを進める際に判断の基準として機能します。例えば、「シンプルで直感的なデザイン」や「アクセシビリティを最優先する」といった原則が設定されることが多いです。
スタイルガイドは、デザインシステムの一部であり、具体的なビジュアルルールを提供します。これには、フォントサイズやタイプフェイス、カラーコード、スペーシング、アイコンの使い方などが含まれます。スタイルガイドは特にビジュアルデザインの一貫性を保つために重要であり、プロダクトがどんな状況でも統一された外観を保つことを保証します。
コンポーネントライブラリは、デザインシステムの実践的な部分であり、UIコンポーネント(ボタン、ナビゲーションバー、モーダルなど)の再利用可能なコードやデザイン要素を含んでいます。これにより、開発チームは同じコードやデザインを何度も作り直す必要がなくなり、作業の効率が向上します。さらに、コンポーネントライブラリを活用することで、デザイナーとエンジニアの間でコミュニケーションがスムーズになり、両者が同じ土俵で作業できるようになります。
デザインシステムを導入することには、多くのメリットがありますが、一方でデメリットも考慮する必要があります。
デザインシステムを構築する際には、以下の点に注意することが重要です。
デザインシステムを効果的に管理するためには、適切なツールが不可欠です。以下は、代表的なツールの紹介です。
Figmaは、クラウドベースのデザインツールであり、デザインシステムの管理に最適です。リアルタイムでの共同作業が可能なため、デザインチーム全体で一貫性を維持しながら作業を進めることができます。
Storybookは、UIコンポーネントを独立して開発・管理するためのツールです。これにより、コンポーネントの見た目や機能を個別に確認しながら、デザインシステムを維持することができます。
Tailwind CSSは、ユーティリティファーストなCSSフレームワークで、スタイルガイドを簡単に構築できます。このツールを使えば、統一されたビジュアルスタイルを効率的に実装できます。
デザインシステムの成功事例は数多くありますが、代表的なものを3つご紹介します。
デジタル庁は、政府のデジタル化推進を担う機関として、統一されたデザインシステムを採用しています。このシステムにより、複数のプロジェクトにわたって一貫したUI/UXを実現し、ユーザーが政府サービスを簡単に利用できるようにしています。
URL:https://www.digital.go.jp/policies/servicedesign/designsystem
クラウド人事労務ソフト「SmartHR」に「だれでも・効率よく・迷わずに。」をスローガンとしたデザインシステムを導入。デザイナーや技術者以外のステークスホルダーにも理解しやすいよう丁寧に説明することで使いやすくし、プロダクトの一貫性を維持、迅速な機能追加や改善を可能にしています。また、toB SaaSのデザインシステムとなっている。
オーストラリアのソフトウェア企業であるAtlassianは、プロジェクト管理ツールJiraやConfluenceで有名ですが、同社のデザインシステムは、ユーザーエクスペリエンスの向上と製品の統一感を高めることに成功しています。このシステムは、世界中の開発チームが効率的に作業できるよう設計され、10年以上も運用されている耐久性の高いデザインシステムとなっています。
デザインシステムは、デジタルプロダクトの開発において重要な役割を果たしています。UI/UXの一貫性を保ち、開発の効率を高めるための強力なツールです。デザインシステムを効果的に導入し、成功させるためには、適切な原則を設定し、スタイルガイドやコンポーネントライブラリを活用することが鍵となります。